「俳句スクエア集」2022年 2月号鑑賞 Ⅰ

                   

                         朝吹英和





雪女いつしかともに踊りゐる          大津留直



 夢見の世界での出来事であろう。幻想性の豊かな季語の力を発揮していて楽しい一句。





片恋の猫が出てゆく春の闇           松尾紘子



 猫の世界にも片思いが存在する。暖かな春の闇夜に出陣する片恋の猫に対する作者の暖かい視線を感じる。





冬うらら六年生の点呼敏(と)し         和久井幹雄



 小学校の朝礼の一齣が目に浮かぶ。最上級生ともなると下級生への模範を示すのであろうか点呼の返事も機敏で頼もしい。和やかな学校の朝の始まりの様子が「冬うらら」によって伝わって来る。





杖を置くベンチの手触り日脚伸ぶ        於保淳子



 歩き疲れてベンチを発見した時の喜び。シルバー層であれば、その有難味も一層増すと言うもの。陽光を浴びて少し温もりを感じたベンチの感触に春の近い事を実感する。





初詣祖父母の杖となりにけり          眞島裕樹



 年老いた祖父母を伴っての初詣。高齢化社会を迎えて、掲句のような光景に出逢う事も多くなった。祖父母への愛情が自然と伝わって来る。





竹林に月の泊つるや神の旅           五島高資



 万葉集には「浜清み浦うるはしみ神代より千船の泊つる大和太の浜」と言う和歌が収録されていると聞く。掲句では竹林から眺めた月と出雲大社に神々が集う「神の旅」との対比に古代へのロマンが感知される。「月の泊つる」の措辞が奏功している。







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  「俳句スクエア集」2022年 2月号鑑賞 Ⅱ

                   

                         松本龍子




谺とは千手のひとつ日脚伸ぶ    石母田星人



 一読、「意味の重層性」を感じる。<日脚伸ぶ>は冬至が過ぎて少しずつ日が長くなること。<谺とは千手のひとつ>とは何か。千手観音はインドでヒンドゥー教の影響を受けて成立した観音菩薩の変化身。声や音が山や谷などに反響する山彦は、千手観音の千手のひとつの手であるという句意。日が長くなる「時間の経緯」と声が千手の一つのように「反響」することに、「アナロジー」を発見して「新しいカオス」が生まれている。






冬光に透かす耳裏けものめく     阪野基道


 

 一読、「光の美」を感じる。<冬光に透かす耳裏>とは何か。耳裏が冬の光に透かされること。<けものめく>は野獣、動物の「匂い」を感じるということだろう。作者の<冬光に透かす耳裏>を見た一瞬の「驚き」が滲み出ている。それは別の意味で自分自身の「獣性」に気付かされたということかもしれない。





起きかけの蒼き闇よりぬつと屠蘇   眞矢ひろみ



 一読、「発想の意外性」を感じる。<起きかけの蒼き闇より>とは何か。言葉のままに解釈すれば、ベッドから起き出したばかりの日の出前の闇からという句意だろうか。<ぬつと屠蘇>とは一年の邪気を払うという、元日に用いる薬酒が急に眼の前に現れたということ。このたゆたうような「妖しいイメージ」はどう解釈すれば良いのだろうか。まるで「祖先神」が作者に屠蘇を注いでいるように感じるのは私だけだろうか。






片恋の猫が出てゆく春の闇      松尾紘子



 一読、「感覚の新鮮さ」を感じる。<春の闇>は月のない春の潤んだ夜闇のことで、春の息吹が感じられる。<片恋の猫が出てゆく>とは何か。猫はこの時期になると本能剝き出しの原初の「求愛感情」を歌う。それを作者は<片恋の猫が出てゆく>と表現したのだろう。季語が「詩語」として巧く昇華されて、猫の「雄叫び」で闇が揺れているようではないか。





冬の星また埋め戻す遺跡かな     五島高資



 一読、「霊妙な香り」を感じる。<冬の星>は晴れた冬の夜空に冴々と見える星。<また埋め戻す遺跡かな>とは何か。大規模な宅地開発で偶々遺跡が発掘されて、それをまた埋め戻しているという句意だろうか。長い間、土の中に埋もれて人の記憶から消えていた遺跡が<冬の星>に照らされることで、素朴な器や土偶が蒼い光を放つ。おそらく作者はその蒼く光る遺跡群の中に「生命の振動」を感じているのだろう。




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