「俳句スクエア集」2019年 11月号鑑賞 Ⅰ

                   

                         朝吹英和



  鳥声の尖りはじめぬ暮の秋          真矢ひろみ


 晩秋から冬の到来も近くなった頃の大気を切り裂くかのように鋭くなった鳥の声に季節の移り変わりを捉えた鋭敏な感性。



  うそ寒の色となりたる風見鶏         松本龍子


 年中無休の風見鶏も暮れ行く秋の空をバックに少しづつ変化を見せていた。晩秋の季節感を風見鶏の「うそ寒の色」と譬えた所に発見の宜しさがある。



  虫の音にほどかれてゆく楡大樹        石母田星人


 風雪に耐えて屹立している楡の巨木も秋の夜長の虫の音に癒されていたのであろう。小さな虫と巨きな楡との対比が効果的。



  冬立つを潮風に聞く石廊崎          加藤直克


 伊豆半島の最南端、太平洋の荒波が打ち寄せる断崖絶壁の石廊崎。沖合の波浪が崩れて発生するとされる海鳴りや潮風に包まれて冬の到来が身に染みて感じられた。




  結跏して色なき風となりにけり        五島高資


 瞑想の座法である結跏趺坐。無心の境地に至る過程と秋の爽やかな色無き風の調和が絶妙である。




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  「俳句スクエア集」2019年 11月号鑑賞 Ⅱ

                   

                         松本龍子



   点描の微光の彼方鶴来る       朝吹英和


 一読、「浮立」を感じる。原色の細かい点の集合の微かな光の先の方から越冬のために鶴が渡ってきたという句意。目に浮かぶのは夕景の湖面にさざめく波に静かに着水する鶴の姿である。上五の<点描の>は赤く染まった湖面の漣にも取れるが、中七<微光の彼方>からは空に浮かぶ光なのかもしれない。いずれにせよ、光を点描と捉えた感性は新鮮である。



  旧館の軋む廊下や穴惑        石母田星人


 一読、軋む音が聞こえてくる。典型的な取り合わせの句。<穴惑>は彼岸を過ぎても穴に入らない、徘徊している蛇のこと。伝統ある温泉旅館の旧館を作者が廊下を軋ませながら露店風呂を探しているのだろう。旧館の長い廊下の薄暗い、ひんやりした空間が妙に蛇と響いて巧みだ。



  老いの幹わずかに揺れて松葉散る   加藤直克


 一読、「浮立」を感じる。長年見てきた松の幹が微かに揺れて降るように松葉が落下したという句意。何気ない松葉の散る瞬間を凝視している作者の心の動きが見てとるように分かる。老いの幹にわが身を重ねながら命の営みに共感する作者がいる。



  秋出水太鼓の森の叫びかな      於保淳子


 一読、祈りを感じる。台風により堤防が決壊して出る大水は太鼓の森の叫びのようだという句意。<太鼓の森の>とは何か。それは大循環の調和の中で台風がもたらす不調和な変動だろうか。その不調和な音に対して森の鳥は囀り、虫は翅音を出し、動物は叫び声を上げる。作者は自然を畏怖し、その叫びに感応している。



  結跏して色なき風となりにけり    五島高資


 一読、充実した生命感を感じる。座禅の中の結跏趺坐をして身に染むような秋風の寂寥感がやってきたという句意。瞑想や座禅は心を「空」にすること。自然を取り戻し、自分の声を聴くことと言ってよいだろう。作者は秋風の中に自分の声を確かに聴いている。



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