「俳句スクエア集」平成31年 2月号鑑賞?

                   

                         松本龍子



  竹馬の一歩の跨ぐ神の山          石母田星人


 一読、少年時代を思い出す。竹馬の一歩が神の山の上を越えるようだという句意。視覚的には小津監督のようなローアングルなら遠景の「神の山」を跨ぐことは可能だろう。ダイナミックな構図は『進撃の巨人』などの巨人伝説を想像させて楽しい。


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  鳥の目に寒林のあり飛び立てり       服部一彦


 一読、寂莫とした詩情を感じる。目の前の鳥の目に寒々とした林が見えたと思ったら、飛び立っていったという句意。鳥の目に寒林が見えるということは単に映りこんでいるということなのか、それともそういう風に見えたということなのか。「作者の心情」が微妙に反映されて、音のない「雪景色」が見えてくる。


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  寒の鯉餌を請ふのか息なのか        石川順一


 一読、俳諧味を感じる。冬の厳しさに普段動かない鯉がふと浮き上がって、水面に口を開けたのは餌が欲しいのかそれとも単に呼吸をしているだけなのかという句意。ささいな生活の「何気ない瞬間」にふと感じた「作者の心の動き」が感じられて好ましい。自分の足元にこそ宇宙が広がっていることに作者は気付いたのではなかろうか。


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  そろそろと雨戸滑らせ別れ雪       加藤直克


 一読、詩情を感じる。ゆっくりと雨戸を閉めながら、今年最期になるかもしれない雪を眺めているという句意。雨戸を閉めるのはおそらく就寝前だから、既に夜の帳が落ちて闇夜に雪が白く光っているのだろう。「雪と闇」を思わず凝視している作者と「うつろいの時間」が見えてくる。


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  雪解水天井に陽をゆらしをり        五島高資


 一読、いのちの揺らぎを感じる。春の暖かさで積雪が解けて水が流れ、小屋の天井に陽が揺れているという句意。設定としては水車小屋とか足湯のような天井の低い場所に雪解水が流れ、その反射光が天井に揺らいでいるのだろう。陽を溶かしこんだ冷たい雪解水は音を立てながら、「四千年前」の太陽の光を天井に映し出し、新しい「いのち」を生み出している。




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