「俳句スクエア集」平成31年 1月号鑑賞 

                   

                         松本龍子



  パトカーのサイレン高き霜夜かな        十河智


 一読、詩情を感じる。さて解釈だが「霜夜」は晴れて寒さが厳しく、霜を結ぶ夜。現実の世界である。上五、中七の「パトカーのサイレン高き」は作者の心の中の出来事だろう。それは記憶の中の災害や事件の中でサイレンの音が鳴り響いているのだろう。「高き」という言葉が効果的だ。


 

  飴色の古書のぬくみや都鳥           石母田星人


 一読、京都鴨川近辺の古書店を思い浮かべる。時間を経た古書と都鳥の取合せ。都鳥は冬になると北方から渡ってくる渡り鳥。「伊勢物語」以来、古くから和歌や俳句に読み継がれてきた「時間」が巧く「飴色の古書」と同化している。切字によって作者の心の世界、つまり「ぬくみ」が伝わってくる。


 

  ほの冥き輪廻のときを冬薔薇          服部一彦


 一読、着想の意外性を感じる。薄暗い新しく生まれ変わった瞬間、冬に咲く薔薇の中にいるという句意だろうか。まるで作者自身が棺の中で薔薇に埋もれながら「再生」しているようなリアルな幻視である。この句に単なる想像でなく「身体感覚」を感じるのは私だけだろうか。


 

  竹馬と高さを競ふ星一つ            大津留直


 一読、詩情を感じる。緑陰は夏の日差しのもとのよく繁った木の陰をいうが、その陰になった鳥居をくぐる女傘であるという句意。鳥居をくぐる際には、通常一礼するがこの情景は木の陰が出ていることから女が日傘をさしたまま鳥居をくぐることに驚いているのかもしれない。鳥居という「虚の空間」に異質な現実の「女傘」が対置されることで、女の「存在」と「傘色」が異様に浮かび上がって面白い。


 

  十字架や人のかたちに蔦紅葉          五島高資


 一読、作者の心の驚きを感じる。人のかたちに蔦紅葉が絡まっている十字架であるという句意。ビジュアル・アイディアとしての面白さより「蔦紅葉」の赤と「十字架」の白の対比が見事だ。切れ字が効果的に使われて「心の中の消息」を巧く伝えている。




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