俳句スクエア集・平成 24 年 6 月号

通 巻 9 9 号



    姦計の蜜蝋滴らす白夜かな          朝吹 英和
    ホルンより飛び出す鼠明易し ☆
    パンドラの箱の底より羽抜鶏


    その上の田遊びの夜の火照りかな       服部 一彦
    貪瞋痴次いで卯の花腐しかな
    筍のスカイツリーを抜く日かな ☆


    翁草たれを童と呼びつらむ          大津留 直
    新緑や終刊号の厚き冊
    柿若葉透ける光のジャムの壺 ☆


    街灯の運河に揺れて夏柳           小島 文香
    薫風の真中にありし乳母車
    紅き薔薇一粒残す夜の涙 ☆


    亀鳴くや真円描く一滴            石母田星人
    陽炎を吸ひこんでゐる空の穴
    鯛の鯛くぐり朧を渡りゆく ☆


    繭割れてたましひ星とあそぶかな       松本 龍子
    死者の貌見てきた貌の蛍かな
    ぼうたんの摑んでみれば濡れており ☆


    囀りや歓喜の金粉まきちらす         鈴木 浮葉
    不可測の嫉妬や著莪の花静か
    青嵐や舞ひ上がる宇治鳳凰堂 ☆


    たなごころ透かす光のチューリップ ☆    加藤 直克
    燃え上がる若葉を超えて不尽の山
    小手毬やくすくす笑うコロポックル


    事切れぬ何処かに咲きにゆくように ☆    加藤昌一郎
    紙オムツの吾中に馬鹿穴とか雌捻子
    灯して精霊船より疾く遠く


    右の手の人差し指に緑蜘蛛          石川 順一
    十薬を越えて畑に入る三人かな ☆
    庭に居る蜥蜴を見れば歯医者行く


    砂の丘繋ぐ手と手の温かさ ☆        毬 月
    夏波の君から先に話し出す
    夏蝶のやうな二人となりにけり


    転校生柿は若葉となりにけり         石田 桃江
    青東風や家の真中に孫立てる
    ほの暗き仏間にともる海芋かな ☆


    たまゆらの風のかたちや麦の秋        五島 高資
    金星が日を横切るや太宰の忌
    屋上を甲板として天の川


   原則として句稿到着順。  ☆は、五島高資推薦句。


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