俳句スクエア集・平成 24 年 4 月号

通 巻 9 7号



    言の葉を包む光彩初雲雀 ☆         朝吹 英和
    弔問の途切れし櫻吹雪かな
    強情な女の残す櫻餅


    急坂を継ぐ急坂の春の月 ☆         大津留 直
    鎮魂の灯うねりて冴え返る
    クレタ島驢馬の踏みゆく春の草


    土の上の残雪映すまなこかな         石川 順一
    朝寝してテレビは付けたままである ☆
    全山が笑ひ恋人たち通る


    とめどなく水反り返る春の闇         真矢ひろみ
    既住症に春昼そそと立ちゐたり
    春キャベツ水の力の葉脈に ☆


    家事すべて済ませばすんとして彼岸 ☆    生田亜々子
    嫉妬とも言えなくもない春の宵
    風車持てば必ず華やいで


    後輪の遅れて止まる雪の後          服部 一彦
    村人の囲む鰤売り風花す
    踏み入れて土やはらかき梅見かな ☆


    薄氷のきしみて恋のあうらかな        加藤 直克
    春雨の音なき生と死のみぎわ ☆
    太陽の皮膚やわらかく太水雲


    友の友は友なんかぢやない 厳寒 ☆     鈴木 浮葉
    逃げ水の逃げゆく先はハワイ島
    リモコンの赤外線に似て直情


    蝶の羽ばたき真似ているうち睡りけり ☆   加藤昌一郎
    己が座に坐して星みな温かし
    鍵穴をかりそめに来し春風か


    雛の家星にならむと浮遊せり ☆       松本 龍子
    涅槃図に浮かんできたる遺失物
    家系図に漂ってゐる春の海


    見えぬものまとふ震災忌の刃物 ☆      石母田星人
    初蝶や時間の匂ひたる大河
    いつまでも立たされてゐる春夕焼


    お湯割りの萌黄匂うや春めける ☆      石田 桃江
    大厄の娘を思いつつ雛飾る
    さんざめく円陣解いて引鴨に


    仙人をふやして春の海来る ☆        毬 月
    龍天に登るや瘀血吐き出せり
    彼岸より悩み出したる屏風かな


    逃げ水やゆれる原子力発電所         五島 高資
    東天を支えて松葉海へ散る
    みちのくへ葉は葉を結びつらなれる


   原則として句稿到着順。  ☆は、五島高資推薦句。


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