俳句スクエア集・平成 24 年 2 月号

通 巻 9 5号



    小悪魔の薄き唇冬薔薇           朝吹 英和
    海底に沈むサンダル冬茜 ☆
    シェパードの耳欹ちて風花す


    玳瑁に横座りして冬銀河 ☆        服部 一彦
    猪の足跡残る月蝕後
    極月のオンドマルトノ海揺する


    十王のさっそく仕事始めかな        加藤昌一郎
    須佐之男の鼻高々と初東雲 ☆
    日向ぼこ弟の跡濡れており


    あめつちのこすれを分けて初茜       加藤 直克
    降りしきるダストや鶴の影ひとつ
    罅撫でて亡き父のいる鏡餅 ☆


    鴉さへうすむらさきの初景色 ☆      大津留 直
    耳底を流れやまざる去年今年
    ネッカーの川面に触れて風花す


    秋風をきざみハモニカウエファース     鈴木 浮葉
    厳寒や黒い三和土(たたき)に紙風船 ☆
    寒満月背負ひて上る無縁坂


    極寒の呼鈴だけが実在す ☆        石川 順一
    二個のうち一個が消える柚子湯かな
    近道をすれば初声聞こえけり


    青猫の消えてゆきたる冬の星        松本 龍子
    星からの光が氷柱磨きけり ☆
    水仙に吸いあげられるひとさしゆび


    木琴の硬く響いて冬青空          生田亜々子
    虎落笛聞きながら見る海図かな
    寄り添えることもできずに寒卵 ☆


    冬の日の歪むあたりを行かむとす ☆    真矢ひろみ
    昼過ぎの夢より恐き枯野かな
    天網の疎なるところを雪間とも


    月蝕の音満ちてゐる海鼠桶 ☆       石母田星人
    人あらば人包みゐる冬日かな
    少女棲むヒッグス粒子より嚏


    俎板にのこるさみどり七日粥        堺谷 真人
    めつむりて赤になりきる日向ぼこ ☆
    黄ばみたる切抜こぼれ阪神忌


    重なりし笑ひ声あり初美空 ☆       毬 月
    初美空平らな風の先をゆく
    これよりは先に始まる玉霰


    去年今年地球に生きて七十億 ☆       石田 桃江
    七草や仕上げにちらす香のすがし
    一月の川細き絆ありにけり


    冬日入れて雑木林のあらかなる       五島 高資
    日高見国へつらつら草石蚕かな
    筑波嶺を蓬莱として湯舟かな


   原則として句稿到着順。  ☆は、五島高資推薦句。


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