俳句スクエア集・平成17年8月号

通 巻 70号



臨海のテラスに「月と六ペンス」           銀 河
夏の潮ゆっくり風の発電所
若葉風岨より岨へ大架橋

遠泳の疲れのごとく眠り落つ             蓼
大ゆやけ補陀落舟に相乗りて
短夜や原初のことば灯るなり

夕焼けや四肢たしかむる獣の目            牛 若
籐寝椅子死にまねの唇濡れてゐし
蜘蛛の囲の幾重の奥の秘仏かな

フラミンゴ列はみ出して炎帝             毬 月
屋根裏の時計戻して未草
古本に電流走り秋黴雨

栗の花咲く木陰あり土蛙               珠 雪
色鯉の泳がぬ池や地震の村
鯉棲まぬ池に添いたり青あじさい

逆上がりしてまほろばを見る晩夏           山戸則江
預言書を枕にしたる三尺寝
風鈴や戦後生まれの人黙る

山手線から七月は燃えはじめ             加藤昌一郎
蛇目覚め天使の喇叭吐き出せり
変容する兵士と石と蟇

黒南風や起爆装置のピン外す             朝吹英和
荒梅雨や紫煙棚引く貴賓室
木の椅子に置かれし洋書クレマチス

空蝉や墓誌にて帰る遣唐使              露壜
ありし日の蒸気機関車山清水
おさな子のさげるあみかご子蟷螂

向日葵の後ろに隠る夕日かな             伊藤華将
天上に白布広げし闇の滝
鍵盤に十指の跳ねて花氷

ジーンズを足で脱ぐ夜や終戦日            猿 人
きのこ雲自由の女神つかみけり
終戦日朽ちた大砲薔薇咲けり

日月はいずれ行き着く苔清水             D.Michigami
鏡にも手にも傷あり少年老ゆ
陋屋や李白と共に酌む濁酒

人間を離れんとして立葵               服部一彦
おほいなる海が間近に梅雨晴れ間
わさび田に降り積むばかり晩夏光

クレヨンでぐいぐい描く青葉かな           斎田 茂
荒波の岩を削りて鑑真忌
掌にひよこ包みて聖五月

揚羽くぐりて山門の威丈高              斎田礼子
あえかなる早苗に風の渡りゆく
白髪増やして花柄に更衣

海ほたる夢の続きは砂の中              銀 河
ダムの虹山の彼方に山を観る
Stand by me 光る鉄路に遠い夏

光年や莢隠元豆に収斂す               石母田星人
山椒魚いま縄文にさしかかり
蒼朮を焼く贋作の像の前

半夏生眠れば湿気る吾の形              更 紗
黄昏の溢るるほどの枇杷熟るる
羅を纏ふ微風を取り込んで

沙羅の花夕べの雨を思ひけり             作田由加子
高らかに笑ふ父あり沙羅の花
さくらんぼ光の色にそまりけり

きのふの黒猫は居づ木下闇              原 清水
二人かな睡蓮の花閉ぢるまで
睡蓮のひとつ水より出でて咲く

連れて蚊とエレベーターは上昇す           白露子
形代の葦舟青く匂ひけり
店たたむ古書店ひそと日の盛り

炎暑の畑を鎮めたる水を汲む             石田桃江
うたた寝のたしかに青田風の波
ブラックベリーに蜜したたらす暑気払い

帚木を抱えて星に近づけり              五島高資
自らの影にひまわり戦けり
遅刻して南瓜の花は黄色かな

                     原則として句稿到着順。原句のまま。


   俳句スクエア集では、皆さんが投稿された俳句を月ごとに掲載致します。

   投稿規定 :  資格は特になし。
         〆切は原則として毎月20日、その翌月号に作品3句を掲載。
         平成17年9月号への〆切は平成17年8月20日。
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         掲載の可否は、「俳句スクエア」編集部に一任。
         投句は、俳句スクエア編集部・スクエア集係 へ。
         なお、必ず題名に「投句」と書いて下さい。

         また、俳句スクエア集に掲載された作品は、毎年度末刊行予定の
         年刊『俳句スクエア集』に入集される予定です。
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