俳句スクエア集・平成17年7月号

通巻69号



神棚に返す横顔初鰹                 毬 月
深きこと水母に問ふて水母なり
今日終えて今日を洗ひてあをばづく

白魚の眼の幽かなり訃報来る             吾 狼
五月雨や列車撤去の虚しさよ
睡蓮の白映えマヌカンよりも映え

ビニールのなかに捕らえり虹ひとつ          猿 人
羊水の血のながれきく海の家
葉脈の乳房となりて夏の朝

あの頃の海滴らす花手拭               加藤昌一郎
おばさん達が来て重なり合って木下闇
腐りたい物が犇く机かな

郭公の声どこまでものぼりけり            露 壜
雷の住処へ伸びるレールなり
青胡桃水面の上の枝にをり

夕顔や海は語らうともしない             蓼
浮草に触れずして岸もどるなり
参考書選んだ頃の五月来る

田を植えし母の一生みどりなす            新井竹志
七十年を語れ生家の棗の実
郭公やこの声届けバクダット

声高に打ち込む竹刀さくらんぼ            伊藤華将
花菖蒲嫁入り舟に米俵
消えていく青空ありて梅雨きざす

夢を出て紋黄蝶が見る夢の後             服部一彦
夏暁船を並べて談合す
天文台のドーム開いて蠅の頭

蛍や闇に寂びしと乱れ文字              牛 若
月雲に入りて蛍のほしいまま
面子などとつくに捨てた冷奴

ベールとり熟し苺は小さい吐息            花 夜
嵐日は梅ようかんを大きめに
肩下がる息深くして薔薇のなか

維新後のヘリオトロープよく笑う           山戸則江
青蜜柑転がる革命はまだか
炎昼の天辺にある一軒家

日の暮れのまた暮れてゆき未草            更 紗
つる薔薇の蕾ほどけてG線上
十薬の殉教めいて吊られけり

少年老ゆ空のプールの暗き底             真矢ひろみ
うぶすなの海碧ければ夏立ちぬ
南国の魂ふるものに初燕

海鳴の抜け殻あまた谷崎忌              石母田星人
蓴採り鍵盤に刻満ちてゐる
星雲と触れ合うてゐる羽抜鶏

御鈴の音夜の青田の深さかな             原 清水
田蛙をばかり聞かされ新仏
釈名の汝と白飯頒ち合い

一人児の多き時代や韮の花              津山 類
紫陽花忌素通りしてもしなくても
半夏雨登り下りを違へけり

汗を拭き木陰に風の触れてをり            石田桃江
若竹の雨の音色を聴いてをり
咲き誇るさつきの庭の照り映える

ぱれすちな杏の中のほむらかな            小林 檀
水玉となりてバイエル麦の秋
朝顔や記録映画のコマ落し

春愁や石に紛るる鯉の色               斎田 茂
春昼や中を暗めし寝釈迦堂
ネクタイを固く結びて立夏かな

缶けりの缶のぽつりと春の果             斎田礼子
山車百台灯して月の欠け始む
鯉幟増えて隣家は声高に

黒潮を分ける島根や雲の峰              五島高資
右腕を枕に暮れて荻の声
天仙果ならその裏にたんとある

                          原則として句稿到着順。


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         平成17年8月号への〆切は平成17年7月20日。
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