俳句スクエア集・平成17年5月号

通巻67号



添えぬ人待ちつる方に冬の月             伝京
火照りたる身に心地良き細雪
降る雪や大地の怒り鎮めつつ

クロノスの鎌煌めくやリラの冷え           朝吹英和
アラビアの茶器ことさらに春惜しむ
四万十の水豊かなる花の夜

城門の重き軋みや其角の忌              斎田 茂
薄氷を踏みたき子供心かな
山里や科の妖しき土雛

ほつれ髪して古雛の遠まなこ             斎田礼子
麹室掃きたて杜氏鳥雲に
薄氷を履みて子役の名調子

夜桜のなかにうごめく周期表             露壜
花の宴花の色なる酒を酌む
流木にせきとめらるる花筏

サンディエゴ発の南風はエアメール          山戸則江
惜春す五分遅れの時計ごと
巡礼に立ちはだかっている毛虫

手枕の白さを言へるさくらかな            服部一彦
太古より黄韮束ねて少年よ
青雲の白きうからと墓を掃く

鳥交るフィトンチッドに心耳透く           蓼
引潮に乗つてゆきたき海市かな
花の夜齟齬を重ぬる二三日

竹の皮ころころ散りて土かをる            毬 月
なつてふの遠出してゐるやうなもの
のせたもののけて眺めし藤むしろ

花明り寄進瓦にわが名記す              牛若
花屑の雑草羽化縷縷如きかな
花吹雪いま結界に僧の見ず

梅ゼリー言葉と言葉が絡み合い            花夜
連日の森林浴に生気の声
一人身の女はひとり蛍食ふ

照星の中はいづこも桜かな              加藤昌一郎
眼つむりいるほかなし青みゆく電車
天女らの朧に落ちる無重力

散るさくら指にからまり貝となる           猿人
葉桜や星を抱きつつ揺れてをり
血管の液となりゆく春電車

夜桜の中シグナルの「歩く人」            原 清水
ふたつなきいのち醍醐のさくらかな
回転翼飛ぶ満開の花の上

くるくると寝返るややや寒戻る            節
ゆつくりと雲の流れて春動く
ぽつくりと芽を出したるチュウリップ

わが皮膚の下の髑髏や朧月              更紗
花散るや敏感肌のふたりゐて
口上の月代蒼き春の月

水牛も僧のかたちに霞みけり             津山 類
さわらびを弥勒のゆびと思ひけり
Mエンデの書読みて春惜しみけり

惜春のまんまん中の寝癖髪              真矢ひろみ
飛花止まず深山の魄に誘われて
幹黒く濡らしてゐたり暮の春

己が影忘れてきしか春の雷              白路子
猫柳フオッサマグナの石空川(いしうつろ)
チューリップ「命の電池」尽きし少女

ゆっくりと生まれるごとく春終る           藤代真路
生きながらなーんにもしないのをしよう
電車から木琴の音春近し

千鳥格子に鳥戻る夢朝寝かな             小林 檀
足首の傷に触れをりクローバー
左脚出したら右手夏立ちぬ

雪柳針の先ほど背伸びする              珠雪
つららにもなれず彼岸のひと雫
寝て起きてまるくなる午後春の猫

前庭のさくら満開ピアノ鳴る             伊藤華将
花冷えや音のはずれしバイオリン
雪形の木魂と遊ぶ月の山

花朧刻の継目の過りけり               石母田星人
意識下に染みこんでゆく春の水
末黒野の天心にある鑿のあと

白椿に魅せられ耳を澄ますなり            石田桃江
ほとばしる蛇口の井戸水春の昼
羊歯萌ゆるしばらくはこのままにして

菜の花の沖して蝶となりにけり            五島高資
カノープス蔵して竹の秋となる
栃の葉のかたちに栃の木が茂る

                          原則として句稿到着順。


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