俳句スクエア集・平成16年10月号

通巻60号


秋冷の万華鏡までひとっ跳び ☆          朝吹英和
新豆腐音符に色のなかりけり
正面に見据えし課題九月来る

秋の日の色鉛筆のたけくらべ ☆          露壜
コスモスの畑に風はあふれけり
山越ゆる送電線や赤とんぼ

飛翔を想い高吟を想い章魚であり          加藤昌一郎
壺の中は玄黄にして章魚謦咳
章魚壺の中もあの世の虫時雨

野分けあとしんとして月ゆがむ           猿人
缶蹴りのチョークの跡や赤蜻蛉
枕辺に靴を揃へり運動会

利腕を振る返照の芒原 ☆             石母田星人
刻の降る坤輿を支へゐる酸橘
石榴笑み周極星の失踪す

散華せで叢朽ちゆくや曼珠沙華           更紗
乙女座のけふの幸ひ鰯雲
夭折の画家の自画像花カンナ

くろがねの夜汽車とめたる百足かな ☆       君野蟠慈朗
蟻の塔地下鉄路線増殖す
口上に俗な念ある花火かな

異星より零れて地の火狐花             白露子
辺土にも伸びしアンテナ曼珠沙華
日輪の使者とも野辺の狐花

風うなる晴天の秋倒れてる             花夜
月灯り蕎麦ようかんをはんぶんこ
冷凍のライチころがる台所

ルルドにてマリアのそばに福江蟹          白梅
しらさぎや二十羽丸く夕の田
サフィニアの咲きし古家は小の土

さまざまに人過ぎ風船かずらかな ☆        沙羅
老犬のすぐ透き通る野分かな
ほの白き翳封筒より出でぬ

トンパ文字ひとつ教わる星月夜 ☆         えんやま福
こすもすの光集めて授乳の刻
告白が激白となる上り月

首細き壜に水満ち台風来              小林 檀
星の歌聴くため水の澄みにけり
小鳥来て木霊の動悸鎮まりぬ

読み終えし本の隙間の秋団扇            宏子
すじ雲と湧く雲のあり九月かな
帰るよと電話に汽笛秋彼岸

黒髪を次切るまでの曼珠沙華 ☆          中原寛也
秋扇廊下に眠り風を聞く
風止みて赤瓶コスモス流れゆく

新聞紙破けてしまう秋の風 ☆           藤代真路
探し物忘れてしまう夏の終
鈴虫の途切れた声と足の音

遙より赤い眼の魚秋の水 ☆            服部一彦
湖の秋山号寺号もう忘る
月に暈最初の一人繭を出て

神隠しからひょっこりと烏瓜 ☆          山戸則江
姓と名の隙間に落ちる木の実かな
彼岸花ありあまる自家中毒症

竜淵に縄文人の虫歯痕 ☆             斎田 茂
万灯の怪しく燃えて峡の夜
賽銭の墨の薄れて秋の風

山のもの増えて小鳥の翳あまた           斎田礼子
少女期はるか秋の野のあれもこれも
檜丸ごと狛犬の眼の爽やか

               原則として句稿到着順。なお、☆は五島高資の推薦句。


   俳句スクエア集では、皆さんが投稿された俳句を月ごとに掲載致します。

   投稿規定 :  資格は特になし。
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         平成16年11月号への〆切は平成16年10月20日。
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         掲載の可否は、「俳句スクエア」編集部に一任。
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         また、俳句スクエア集に掲載された作品は、毎年度末刊行予定の
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